『 君に出会えたことを、運命と呼んでも・・許されるでしょうか? 』
山ツナ合同誌 『Amore della differenza rango (身分違いの恋) 』 小説サンプル↓
<あらすじ>
時は明治、武士の世が終わり商人達が台頭し始めた変革の時代。
かつて並盛の町を支配した華族の跡取り、綱吉は「薔薇屋敷の息子」
として揶揄され、敬遠されて十四年を生きていた。
自分の生きる道など落ちぶれた家を継ぐほかないと思っていた綱吉だが
向かいの道場で竹刀をふるう剣道少年、山本武との出会いが彼を変えていく。
剣術を通して成長する綱吉と、彼を見守る山本との間には淡くはかない
友情が芽生えるが・・。
明治初期を舞台にした、友情ほのかにBL(!?)のようなストーリーです。
身分違い・・はあまり強調されていないのです・・が・・(すいません)
友情と恋の境目くらいのふたり。シリアスですが甘酸っぱいです。
***
<本文サンプル>
薔薇と名づけられたその花を雨が降り出すまで見ていた。
ため息をひとつ、そして瞼を下ろす。脳裏に過ぎるのは
昨日宣告のように告げられた母の言葉。
「お願いツー君・・これは、笹川さんにとっても良い話なのよ」
自分は何と答えたのか思い出せない。
返事をしないことさえ先方には「イエス」と伝わるのだろう。
――俺に、どうこうできる問題じゃない。
どんな形でも、この家が存続すればいい。
綱吉はもう一度目を開いた。降り始めた雨は冷たく
深紅の花弁を何度も打ち付けていた。
(君がいた夏・仮題)
「ここの薔薇、いつも綺麗だよな」
それが男の第一声だった。
日に焼けた肌に汗が滲み、真っ白な胴着が青空に映えて清清しい。
少年は男を見上げた。軽々と肩にかけた竹刀。自分より何尺背が高いのだろう。
「・・・」
綱吉は返事を断るように首を振った。自分と関わればまたあの「薔薇屋敷の息子」の
知り合いと揶揄されるだけ――そう思ったからだ。
自分に向けられるのはいつも、奇異なるものに対する興味と好奇の目だけだと、
綱吉は思っていた。
この夏の空のように晴れ渡った、笑顔の青年に会うまでは。
男は無言の綱吉の隣に並ぶと、「・・いい天気だよな」と
言った。生垣の向こうの薔薇がいっそう晴れ渡る夏空だ。
綱吉はあらためて男を見る。目が合うと、青年はほころぶ様に笑った。
「なぁ剣道、やんね?」
それが男の第二声だった。
「こうやって柄を持って・・肩で振り下ろす。息を、ゆっくり吐いて――」
竹刀は――体全体で扱うものだから、と山本は言う。
綱吉は促されるままに竹刀を何度か振り下ろした。肩が痛い。
腕から肘にかけて引きつるようだ。
綱吉が眉をしかめると山本は竹刀を外し、休もうか、と言った。
綱吉が頷くと山本は相好を崩した。朝一番に握ったおにぎりと水筒を手渡す。
二人で道場の廊下に出ると縁側の先に先日眺めた薔薇の庭が、その奥に綱吉の屋敷があった。
沢田家は元々、大名の血をひく名家であった。その十代目当主である綱吉は、
本来ならば並盛一帯を支配するお殿様であったが、開国以後、高まる資本主義
への期待と比例して、華族の力は衰えつつあった。その代わりに台頭してきた
のが、貿易商や問屋――いわゆる商人達である。
綱吉の祖父は並盛の主権を手放す代わりに、広大な土地を街の郊外で買占め、
そこでイギリス式の庭園を築いた。彼は沢田家の資産を薔薇の生育に注ぎ、
丘の上の屋敷はやがて「薔薇屋敷」と評されるようになった。
その意味合いは賞賛よりも批判に近く、跡取りの綱吉もまた「度を越した花好きの孫」
として屋敷と同じく、街では有名な存在だった。
彼に声をかけた男の名前は、山本武と言った。山本の通う道場は
薔薇園の向かいにあり、綱吉の屋敷から道場の赤茶けた瓦を数えることが出来た。
その男が、百年余り続く道場で近所の子供達を相手に、剣道を教えていることを
綱吉は通い始めてから知った。山本は綱吉と同い年だったが学校には通わず、
夜は実家の寿司屋で修行をしていた。剣道は祖父から習い、稽古をつけるのは
半ば趣味、と彼は微笑んだ。
「店継いだらたぶん・・こっちは店じまいだからな」
山本の言葉に綱吉は振り向く。稽古に通う子供達を帰してから夕刻まで――
鴉が鳴き始める頃まで剣道を習うのがここ何日か日課になっていた。
竹刀はおろか刀にさえ興味がなかった綱吉だが、焼けた素肌の確かな腕と
人懐こい笑顔に引き込まれ、八月も半ばを過ぎる頃には、彼は山本の道場の
門下生になっていた。勿論、一番の落ちこぼれではあったが。
「毎日・・窓からこっち、見てるだろ」
――剣道、やりたんかなーって思ってさ。
それが山本の「勧誘の理由」だった。半ば強引なスカウトだったが
綱吉は否定しなかった。窓から見ていたのは紅く美麗な花々でその向
こうの瓦など――気にも留めなかったのだが。自分を薔薇屋敷の息子、
と嘲笑しない山本が、街中や学校で馬鹿にされていた綱吉には新鮮な存在だった。
山本は初めて出来た、綱吉の友達だった。
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こんな感じのお話です。続きは本編で(笑)
おまけは遊郭山ツナ小説本&大奥山ツナちらしです。
イベントで見かけましたら、宜しくお願いします。