目覚めると、まだ暗い窓の外は暗かった。
「起こしてしまいましたか?」
スーツを着かけていた獄寺君に、俺は「ううん」
と、頸を振る。
一緒にいられるときは同じベッドの中で。
愛や衝動を語らなくても、その温かさだけで
俺は十分熟睡できるようになっていた。
「リボーンに?」
仕事で呼ばれていることは聞くまでもないが
それでも彼の行く先は気になる。
「ええ・・朝イチでミラノに。取引で不備があったみたいです」
「大変だね」
「何でもしますよ。貴方のお役にたてるのなら」
「・・よく眠れるようになったよ」
獄寺君のおかげでね、と付け加えると彼は
伸びた髪を束ねて「光栄です」と笑った。
「こっちに戻ったら、すぐ本部に向かいます」
向こうでお会いしましょう、と微笑んで
彼はドアの向こうの闇に消える。
「気をつけて」も「いってらっしゃい」も不要。
俺は彼が出て行くときはすぐ、寝たふりをする。
それが、彼が一番安心する送り出し方だと知っているから。
俺がいつまでたっても寝付けないと、獄寺君は心配して
一晩中羊を数えてくれる。
冷え性な俺の手をぎゅっと繋いで、胸元に抱き寄せて。
規則的に波音を刻む心音を、ほんの少し遠くで聞きながら
俺はゆっくりと夢現を行き来する。
「獄寺君がいないと・・怖い夢を見るんだ」
だからそばにいてなんてとても言えない。
ただ閉じた闇の中で、彼の帰りを待っている。
俺だけの・・羊を数えながら。
<終わり>