男とセックスしたことは無いが行為の仕方は聞いたことがある。
体のつくりは女よりもっと単純だ。ただ女のように勝手に潤って
くるわけではない。山本は人差し指を舐めると唾液もそのままにそれを
ツナの後方に突っ込んだ。「あっ・・んぁっ・・っ!」鼻につく声が
木霊する。背筋をくねらせる腕の中の男はまるで別の生き物のようだ。
指先で内部をかき回すと面白いくらいいい声で鳴く。理性を忘れた鳥の
ように。
「やまもと・・っ、もっと大きいの・・ちょうだいっ・・!」
ツナの期待に応える分くらいには山本の主張も膨張していた。ただ
それをツナに突き立てることに躊躇した。性器を舐め、後方を指で犯して
何を戸惑うのか自分でも分からない。ただそこにこれを挿入してしまえば
戻れなくなるような気がした。現実か、平穏か。相手は元・クラスメイト
今は得体のしれない男。それだけでも十分アブノーマルなセックスだった。
考えながら指を動かすと、ツナが嬌声を上げた。いいところに当たった
らしい。そこをぐりぐりと押すだけで面白いくらい射精する。アナルセックスは
癖になるというが――この体はもう、中毒といってよかった。
山本は息を吐くと、ツナの両足を膝の後から手を入れて持ち上げた。十分指で
解した入り口に己の主張を、押し立てる。最初の締め付けはきつかったが、後は
すんなり山本を受け入れた。入れ込んで揺さぶると軟体動物のような細い腰が
つられて揺れた。あ、あ、・・としどけない声が響く。漏れる息は言葉の形を
為さない。山本は激しく腰を打ち付けたり、先端が覗くほどまで抜いてそのまま
一気に突き上げたりした。女のような底深さはない、終わりのある挿入。けれども
自分に絡みつく襞の粘着性は女よりもっとひわいだ。言うなら締め付けが非常に
いい。山本は眉を潜めてぐっと我慢したが、堪らずツナの中に射精した。一度
引き抜く間もなかった。吸収されない精液がどろりと入り口から溢れて、白い
大腿を滴る。それさえも背徳的だった。こんなところに出したって何も根付かない
のだ。それでも、入れてしまう、出してしまう。自分が分からない。
何かを確かめたくて山本はもう一度挿入した。十分なくらい性器はたっていた。
ツナは悦んで、悲鳴を上げて、泣いた。いいのか痛いのかいきそうなのか、確認
さえしなかったが、精も魂も尽き果てたころには互いに汗だくになって
布団に倒れていた。セックスしていたのか運動していたのか、分からなかった。
***
山本はふと10年前のある出来事を思い出した。
卒業式の後だった。体育館を通りかかったのは
偶然だったが、連れ立って歩く二人の後をつけたのは
故意にだった。
ツナと、獄寺――あるとき転入してきたイタリア人の
ハーフとツナは急に仲良くなった。獄寺の方が勝手に
ツナを慕っている気がした。二人の仲を茶化す連中も
いたが、獄寺のほうは本気、ツナの方はだんだん感化された
そんな印象だった。
「――やっと、決心されたのですね」
男の声に山本は歩みを止めた。体育館の裏、茂みの奥でだった。
嬉しいです、俺――と男がいい、静寂が訪れた。何を話している
のだろう。単純な好奇心から山本が奥を覗いたときだった。
男の腕の中にいるツナと目が合い、山本が声を上げそうに
なった。獄寺はしっかりと、ツナを抱きしめていた。親愛よりは
愛情に近い腕の回し方だった。
見た瞬間、山本はやばい、と思った。二人の関係も、自分自身も
何かしらの変化が生じていたのだ。生唾を飲み込んで、山本はその場を
足早に去った。見なかったことにしよう、聞かなかったことにしよう、と
何度も祈った。念仏のように。
無我夢中で部室まで走って、振り返ると――フェンスの後にツナがいた。
山本は焦った。喉がからからに渇いていた。
――お前ら出来てたんだなー知らなかった・・とでも軽口を叩いて
逃げだしたい気分だった。旧友のラブシーンを見て平気でいられるわけではない。
「・・山本、ちょっといい?」
ツナの声は思いのほか落ち着いていた。彼は頷いた。腰から下が
金縛りにかかったようだった。
「あのね・・俺、イタリア行くんだ」
ごくん、と生唾を飲んだ。音だけが皮膚を越えて響く。何をツナは
言ってる?何の話を――
「俺のお祖父さんはね、イタリアでも三本の指に入るマフィアの
ボスなんだって・・獄寺君はその部下。俺を――迎えに来たんだ」
嘘じゃないよ、と付け足して。
「・・俺はね、そのマフィアの十代目なんだって。そのために
明日から――イタリアに行くんだ」
そんな話をどうして俺にするんだ。
山本は瞬きひとつせず彼の話を聞いていた。チャイムが鳴ったが
そんなことは関係ないように二人は立ち尽くしている。彼と自分を置いて
その周りの空気がすべて止まってしまったようだった。
「・・そっか、いろいろヘビーなんだな、ツナも」
曖昧に濁して、山本は頭をかいた。話がシビアすぎる。ついていけない。
でも分かる――ツナは本気だ。彼は本気で、イタリアにいってその何とか
十代目って奴を継ごうとしてる。あの転校生と一緒に。
なんでそんな話をいまさら――
山本はそう思って沈黙した。そんなことをいう筋合いは無かった。
ツナは自分が例の現場を目撃してしまったから事情を説明しに
きたのだ。山本は苦笑した。後を付けたのは俺なのに。理由を聞いたって
気の利いたことひとつ言えねぇ――意気地が無いのは、どっちだ。
「ま、まぁ辛くなったらさ、いつでも遊びに来いよ。俺んち、空いてるし」
苦し紛れに言葉を並べると、山本はツナの肩をぽん、と押した。
運命を変えるかもしれない場所に行くクラスメイトを、激励する上手い
台詞も出て来ない。
手を離して垣間見たツナの横顔は泣いていた。
抱きしめたいと思ったのは、それが初めてで最後だった。