[ デザート ]




 窓の向こうの街路樹が色づき始めている。
一戦終えてから喉に押し込んだテキーラが焼き尽くすのは
消化器官ではなく心臓だ。この坊主を抱いたときにだけ
上がる心拍数。けして知られたくないもの。


 少年は裸のまま寝返りを打つと、今日は何人、と
尋ねた。患者の数だ。ただしどれもべっぴん金持ち
病気持ちと三拍子、揃っていなければならない。
 7人だよ。医者が答えると少年は続けさまに言った。
「全部抱いたの?」
「そんなにタフじゃねぇ」
 ちょっと、味見したくらいだ、と答えてコルクの芯を
硝子に押し込む。中の液体が、動揺する胸の内のように
波打った。
「味見ねぇ・・」
 少年は天井を見やると、汗をかいた額に手を当てて
呟いた。数も味見も嘘じゃない。タフかどうかは、お相手した
女性の知るとおりだった。
「俺は・・何なの?」
 聞かれて医者は黙った。全部喰っちまった、とは言えない。
頭の天辺からつま先まで全部頂いたはずなのに、抱きしめたら
空だった、とは。ましてこいつは――男だ。
 触ることさえ苦々しく、身の回りのすべてが女性だったらと
何度も夢見た無類のフェミニストが、この様だ。
 情けなくて信じたくもない。


「デザートみたいなもんだ」
「・・デザート?」
 メインを喰った後の、口直し程度。メインはもちろん治療。
セックスは、余興。
 そんなもんだ、と医者は煙草に火をつけた。これ以上裸の肌と
会話していると柄にもなく襲ってしまいそうだった。


「じゃあドクターは最高のチーズケーキだね」


 そんなに甘く抱いた覚えはないが、褒め言葉として
受け取っておくことにして、シャマルは煙草の灰を
灰皿に落とした。
 煙の向こうで、極上のデザートが溶けるような眼を細めて
ふふっ、と笑った。