[ 手袋とマフラー ]




 吐いた息が空に昇る。真っ白だ。
彼はまた、いつものように校門の前で待っていてくれるのだろうか。


「・・ごめんね、だいぶ待った?」
 俺が駆け寄ると獄寺君は息を白ませて答える。
「いえ・・俺も着いたところですから」
 顔が雪のように冷たくなっているのは、表情からでも分かる。
この人はいつも俺に気を使わせないように、気安く何でも嘘をつく。
俺を傷つけない、たわいもない嘘を。
 それに気づいたら、もう何も言えなくなってしまった。
暴くつもりも、責めるつもりも毛頭無い。


 俺だってこの気持ちは告げられない。


「・・帰ろっか」
「はい」
 俺が歩き出すと彼はついてくる。
待ち合わせて一緒に帰る、そのことが。
天上にいるくらい幸せな、そんな表情で。

 くしゅん、と俺がくしゃみをすると
獄寺君は慌てて巻いていたマフラーを俺の首に掛けた。


「獄寺君・・いいよ」
 それじゃ君が寒いでしょう。
「いいえ・・十代目の健康が何よりです」
 そんな笑顔で模範解答を言われると――俺には反論の余地が無い。
「じゃあ・・俺の、半分あげる」


 俺は昨日母親が編んだばかりの毛糸の手袋をひとつ、彼に差し出した。
獄寺君は濃紺の手袋を左手にはめると
「ありがとうございます」
 と微笑んだ。・・そんな柔らかい顔されてしまうと
こっちの頬が溶けてしまいそうで。
俺は慌ててマフラーの重なりに顔を隠した。
 俺は右手に手袋をはめると、左手で獄寺君の右手をぎゅっと握った。
銀の指輪をいくつもはめた、ひんやりとした右手だった。


「・・十代目?」
「――こうすると・・あったかいから」


 はい、そうですね、と獄寺君は微笑む。
隣の彼は、耳たぶまで真っ赤。  でも俺もひとのことは言えない。
顔が火照って、熱が出てしまいそう。


 こころがどきどきして、首から上が
温かくて・・彼がいればきっと、カイロなんていらない。

 君がいなければ知らなかった、感じることさえ出来なかったこんな思い。
赤らんだ頬も震える手も、今日なら雪のせいにしてしまえる。だから。


今日は何も言わないで、手を繋いで帰ろう。


残雪の光るこの道を、また明日二人で歩こう。