[ 肉まんあんまん物語 ]




 ジャンプ、今日発売なんだって。コンビ二寄ってかね?
山本に言われたので俺は付いていった。そばにいられるのなら
どこに寄り道したって構わないのは内緒。俺はいつだって彼の
広い背中についていくのが好きなんだ。
 ツナってさ、漫画読まねーの?と聞かれて俺は首を横に倒した。
山本が面白いって言うなら、面白いのかもしれない。
読まないわけじゃないよ、と答えると、じゃあ今度俺んち来いよ、
スラダンとか全部揃ってるし・・と、陽に焼けた顔が笑う。
 集めだすと止まんないんだよなーと、言いながら彼は雑誌を
レジに出した。俺は山本が手に取ったのが漫画雑誌の隣のグラビア
の載った雑誌じゃなくて、何故かほっとした。


「ついでに・・肉まんとあんまん下さい。ひとつずつ」


 山本が勘定をしている間俺は、レジの奥のカレンダーを見ていた。
もうすぐ12月・・山本は忙しいのかな?柄にもなく俺は24日の
ことばかり考える。人生で初めて、聖なる夜に彼が誰と過ごすのかを
気にする。その感情に名前をつけるつもりはない。ただの憧れのままに
しておこうと12月のスケジュールも真っ白な、惨めな自分は思う。


「・・ツナって、あんまん好き?」
 コンビニを出るなり差し出された蒸気に包まれたあんまんに俺は
すかさず頷いた。
「う、うん・・」
「じゃあ食わね?ちょっと腹減ってきたし」
「あ、でも山本は」
「俺は肉まん食うし」
「・・・」
 ありがとう、と小声で言って俺はそれを受け取った。
あんまんも肉まんもコンビニで買ってもいつも家に持って帰って
食べていたから・・俺は、出来立てほやほやのあんまんの味を
知らなかったんだ。
 ・・あんまんって中身、けっこう熱いんだね。



俺がふうふう言いながらあんまんを食べていると
先に肉まんを食べてしまった山本が、うーんと背伸びしてから
こう言った。俺が熱々のあんに気を、取られている間に。


「ツナって・・今年のクリスマス開いてる?」
「・・?」


 見上げた空は既に薄暗く、星がきらきらと瞬き始めている。
来月の同じ日も、こんな綺麗な星を同じ寒空の下で見上げることが
出来るのだろうか。


「・・クリスマス、俺んち来ねぇ?」



 ・・・!
 返事をするより早く舌の上に乗ったあんこに火傷して
俺は右手で口を押さえたまま、うんうんと、頷いた。
 口の中が熱くて答えられない。


 山本は俺の返事をイエスだと思ったのか、そうかーと言って
嬉しそうに、頭の後で組んだ腕を下ろした。
 俺の猫舌を覚まそうと彼が買ってくれた緑茶を飲みながら
俺は、あんまんの中があっちっちでよかったと思った。


 ほかほかしている間に、嬉しくて泣き出しそうになったのを
やり過ごしてしまえたからだった。