[ 闇を飼う ]
「今度は猫とじゃれあってきたのか」
ボスが帰るなり殺し屋は新聞を畳んだ。シャツのボタンもひとつずつ
丁寧にはめてネクタイの向きも直してきたというのに、ツナがこの男を
出し抜けたことは一度も、ない。
「そう・・ちょっとだけね」
またたび代わりに跨ってキスをしたら、存外簡単に舌を入れてくれたよ。
ツナはぺろりと舌を出して、リボーンの向かいに座った。挑発するときだけ
距離を取る。
「――動物ならここにもたくさんいるだろうが」
アルコバレーノの猫を喰った男にリボーンがため息を吐くと
「だってこっちのはみんな従順なんだもの」
首筋の噛み跡をかきながら、ツナは悠然と答えた。スーツを剥げば、キスマークは
あちこちに刻まれている。
「――なんだ、反抗されたいのか?」
「まさか、俺の言うことを聞いてくれる人は好きだよ」
いまいち掴めないな、とリボーンは膝を組んだ。
食いつきそうな目つきを向けるのは情事の後だからか、それとも――
挑発的なボスの発言を一通りめぐらし、リボーンはネクタイの結び目を
緩めた。主君の望みを見抜けないほど、もうろくするつもりはまだ――無い。
リボーンが膝をソファーに乗せて彼を見下ろすと、黒い皮が軋んだ。
コロネロと一戦構えたのは白いソファーだったか。今度は自分が下、
お仕置きを受ける番だとツナは思った。
顎を持ち上げられて目を閉じると、温かくも狂おしい闇がゆっくりと
自分を侵食していった。
この男のもたらす悦楽につける名前をまだ彼は――知らない。