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リボーンの急な出張が決まったのは、今日の午後だった。
荷物を手馴れた様子でスーツケースに押し込んだリボーンに
ツナは「こっちは大丈夫だから」と微笑んだ。
彼がいない間の10代目の護衛は、リボーンが部下や顔見知りの
連中に声をかけたためすぐに代理が決まったのだ。
「ちょっと、喧嘩になって大変だったんだけどね」
手帳を広げながら、ツナが苦笑したためリボーンは
それをひょいと取り上げた。
明日の欄にびっしりと書き込まれていたのは、休む暇も
ない彼のスケジュールだった。
獄寺との朝食を皮切りに、山本とランチバイキング、
3時にはランボとおやつ、ディーノとレストランで夕食・・
鬼のいぬ間にとばかりに詰め込まれた予定に、リボーンは
殺意のこもった笑みさえ浮かべた。
――どいつもこいつも、俺がいないからって・・
おそらく誰がどの時間にツナを占有するかで、血で血を
洗うような争いが起きたのではないか。その様子は想像に
難くなかった。
「なんだかみんな、俺と何か食べに行きたいっていうから・・」
ツナが手帳の背表紙を見ながらぶつぶつと言うと、リボーンは
手帳を閉じてため息を落とした。
――あいつらが食いたいのは、どんな有名なレストランのディナーでもない
きっと、お前だよ。
おそらくこの鈍感なボスは、下心見栄見栄のデートさえ食い気につられて
のこのこと付いて行くに違いない。気がついたらその身まで食べられていたなんて
事後報告では遅すぎる。
「食われるんじゃねーぞ」と、彼が釘を刺すと、ツナは表情に
クエスチョンマークを浮かべて頸を傾げた。
「それとも俺だけじゃ、ものたりねーか?」
「何言って・・リボーン。・・んっ――」
至近距離で念を押し、唇を強引に奪うとツナは顔を紅潮させ
リボーンの肩を押して抗議した。
自分が嫉妬されていることにさえ鈍いこのボスにどうやって
この懸念を理解させるか――方法はひとつだけ、身体で分からせる
ことだった。
ことを終えて、ぐったりとベッドに沈んだツナを見やると
リボーンは「行って来る」と簡潔に伝え、ドアノブに手をかけた。
「お前は一生予約済みなんだからな」
――そんなの、いつだって俺はリボーンの空き待ちなんだよ?
言葉にならない非難をツナは無言の見送りで表した。
埒の無い嫉妬も、自分の身の心配も嬉しくないと言えば嘘になるが
離れ離れが寂しいのは、正直悔しい。
一度でいいから・・君の存在を貸しきらせてよ。
ツナは閉じたドアを恨めしそうに眺めると、タオルケットを頭から
はおった。二人の体温で温まったシーツからは、普段は香水ひとつつけない
彼の・・熱の名残が香るような気がした。
<終わり>