MOON LIGHT
月が出ていた。
バルコニーから手を伸ばしそっと暗闇に手を伸ばす。
何もつかめない。闇があるだけだ。
綱吉は右手を握り締めて離す。
腕を、ゆっくりと元に戻す。
手を伸ばせば星の光をも掴めそうな満月の夜。
綱吉は隣に立っている山本を眺める。
この十年で随分背丈が伸びたように思う。
でも。顔を上げ続けても首が痛くならないのは
そばにいたいのが山本だからだ、と綱吉は思う。
星が出ていた。
彼は手を伸ばすと指を広げ、ゆっくりと星の砂を掴む。
太陽が下りれば空は随分近くて。
手を伸ばしたら星に届きそうだよ、と君は言う。
山本は綱吉を抱きしめたくなる。
乱暴なことをして癒される時間はもう、過ぎている。
そばにいることさえ救いになってしまうことを、十年かけて知った。
風が出てきた。
イタリアの冬は寒い。日本とそう外気は変わらないので綱吉は
母親の編んでくれたマフラーを愛用している。
「ホッカイロ持ってくればよかったね」
「今度帰省したら買いに行こうぜ?」
綱吉に触れられなかった彼は言う。休みなどこの数年
取れたためしは無いけれど。
「・・寒くなってきたね」
「・・ああ」
もうすこしだけこの暗い空の下で星を見ていたくて
綱吉は目を閉じる。
君が隣にいる気配、それだけで。
どんな名前の地上にいてもそこは、楽園だ。